3種類のタンパク質の吸収スペクトルは非常に類似しています。いずれも、比較的広く、非構造のアミドI吸収帯(主にC=O伸縮モード、図中では「I」)と、アミドII吸収帯(主にC-N伸縮モードおよびN-H変形モード、図中では「II」)が確認できます。
より詳しく見てみると、ヘモグロビンのアミドI吸収帯は1650 cm-1周辺で非対称になっています。また、コンカナバリンAのアミドI吸収は1630 cm-1がピークで、1690 cm-1に小さなショルダーがあることがよく分かります。
類似した吸収スペクトルを持っていても、これらのタンパク質にはその二次構造に大きな違いがあります。ヘモグロビンは主にαヘリックス構造、コンカナバリンAの大部分はβシート構造をとり、リゾチームは両方の構造要素を、同じ量で有しています。
さらに違いが分かりやすいのは、VCDスペクトルでの二次構造です。ヘモグロビンの誘導体に似た吸収帯はαヘリックス構造でよく見られるのに対し、コンカナバリンAのVCDスペクトルが1630 cm-1で低下しているのはβシート構造独特の動作です。このことから、リゾチームのVCDスペクトルが両方の要素を含むのは当然のことといえるでしょう。
このため、VCD分光法ではタンパク質の二次構造を独自に特定するだけでなく、構造変化を観察することもできます。その他のタンパク質に関する実験では、VCDの信号が明らかに二次構造に依存していることが分かっています。