アプリケーションノート -  磁気共鳴

化石燃料の燃焼に伴う環境残留性フリーラジカル

石炭燃焼、自動車排出ガス、バイオマス燃焼活動から採取された粒子状物質試料から環境残留性フリーラジカルの有意な発生が検出されています。

「…石炭燃焼、自動車排出ガス、バイオマス燃焼活動から採取された粒子状物質試料から環境残留性フリーラジカルの有意な発生が検出されました」

環境残留性フリーラジカル(EPFR)は、不完全燃焼によって生じる有毒な生成物です。
EPFRは芳香族炭化水素との相互作用によって粒子状物質上に形成され、金属酸化物によってその生成が促進されます1。EPFRはフリーラジカルと異なり反応性がそれほど高くないため、数か月にわたって環境内に残留し、永続的に残る場合もあります。

EPFRはDNA損傷、心毒性、酸化ストレスを引き起こし、吸器系、免疫系、心血管系に悪影響を与えて人の健康に害を及ぼすことがあります2, 3。大気中の微小粒子状物質が気道や肺の奥深くにEPFRを運び込み、人の健康に有害な作用を与える可能性があるのです。実際、粒子状物質上のEPFRは、よく知られている個々の有機汚染物質よりも細胞傷害性が高いことが知られています1。EPFRの破壊力がフリーラジカルより弱くても、寿命が長いため、人に害を及ぼす機会がはるかに多くなります。また、EPFRは有害な活性酸素種の発生を誘発すると考えられます2, 4

EPFRが人に害を及ぼす可能性が非常に高いことから、粒子状物質内でのEPFRの分布と性質を特定するための大規模な研究が実施されました。EPFRは、人が作り出した粒子状物質を高濃度に含む大気中で、大量に検出されています。これは、EPFRの分布がヘイズ(煙霧)現象で変化する可能性があることを示唆しています。煙霧とは、ほこり、煙、その他の乾燥粒子によって視界が悪くなる大気の現象を表す用語です。煙霧現象は頻繁に見られるようになっており、北京では2015年に大気中の微小粒子状物質の濃度が中国国家環境大気質基準の8倍に達しました。

大気中の微小粒子状物質内のEPFRの濃度と粒度分布がわかっていないため、煙霧現象による健康への影響はまだ明確になっていません。煙霧現象が健康上のリスクをもたらす可能性をより正確に評価できるように、研究では、北京において煙霧現象発生時とそれ以外の時の微粒子上のEPFRに対する暴露の程度が測定されています5

煙霧が発生している日と発生していない日に、粒子状物質の試料が捕集されました。Bruker EMX-plus X162バンドESR分光計を使用した電子常磁性共鳴(EPR)分光法によって、EPFRの量と粒度分布が測定されました。また、石炭燃焼、自動車排出ガス、廃棄物焼却などの化石燃料燃焼度の高い大気から収集された粒子状物質のEPFR含有量も、ESR分光法を使用して評価されました。

ESR分光分析により、煙霧発生日に捕集された大気中の微小粒子状物質に含まれるEPFRの平均濃度は、米国の大気に関して以前報告された濃度より2桁も高いことが明らかになりました。化石燃料燃焼度が高い地域で捕集された試料中のEPFR濃度の高さを、ESR分光法を用いて測定したことにより、大気中の微小粒子状物質内のEPFRの主要な発生源は化石燃料燃焼であると考えられるという説を、研究者は裏付けることができました。

さらに、高濃度のEPFRは粒子状物質の細粒分(直径1 μm未満)の中に見られました。このことから、吸い込むと肺の奥深くに到達する可能性が非常に高いことがわかります。これまでの調査と同様、この調査で捕集された試料内のEPFRは、平均半減期が約2か月でした。以上のように、この研究結果は、EPFRのリスクの可能性を評価する際の基礎を提供しています。

EPFR濃度が非常に高くなる可能性のある人為的活動が大規模に行われている地域では、特別な注意が必要です。また、EPFRに残留性があるということは、環境と人の健康の両方に長期にわたって悪影響を及ぼす可能性があるということに他なりません。

参考文献

  1. Lomnicki S, et al. Copper Oxide-Based Model of Persistent Free Radical Formation on Combustion-Derived Particulate Matter. Environ. Sci. Technol. 2008;42:4982 4988.
  2. Chuang GC, et al. Environmentally Persistent Free Radicals Cause Apoptosis in HL-1 Cardiomyocytes. Cardiovasc Toxicol. 2017;17(2):140 149.
  3. Dugas TR; et al. Addressing Emerging Risks: Scientific and Regulatory Challenges Associated with Environmentally Persistent Free Radicals. Int. J. Environ. Public Health 2016;13:573.
  4. Gehling W, et al. Hydroxyl Radical Generation from Environmentally Persistent Free Radicals (EPFRs) in PM2.5. Environ. Sci. Technol. 2014;48:4266 4272.
  5. Yang L, et al Highly Elevated Levels and Particle-Size Distributions of Environmentally Persistent Free Radicals in Haze-Associated Atmosphere. Environ. Sci. Technol. 2017;51(14):7936–7944.