アプリケーション例 - 磁気共鳴

大気中の粒子状物質の健康影響評価

「…二次生成有機エアロゾル及び鉱物性粉じんの吸入、沈着は活性酸素種の放出に繋がり、酸化ストレスの一因となる可能性がある」

大気中に長時間にわたって滞留する微小な固体粒子及び液滴を大気粒子状物質と呼びます。粉じんやばいじん、ばい煙、エアロゾル、排ガスなど様々な物質からなり、一般的にその大きさにより、粗大粒子(粒径以上)、微小粒子(粒径2.5 μm未満)または超微小粒子(粒径0.1 μm未満)に分類されます。火山や砂塵嵐、森林火災などから自然に生じるものが大半である一方、化石燃料の燃焼といった人為的活動に由来する粒子状物質も多く存在します。

浮遊粒子状物質が私たちの健康に及ぼす有害な影響についてはこれまでに数多くの報告がなされており、肺刺激や炎症、慢性肺疾患患者における呼吸機能の低下などが挙げられます。こうした影響は血液生化学的な変化を引き起こす可能性があり、血栓の形成や心臓発作のリスク増大、あるいは心機能を低下させる化学物質の放出につながる場合があります。粒子が小さいものほどより深く呼吸器系に侵入し、吸入による有害性が高くなります。

さらに、粒子状物質は風によって遠くまで運ばれ、その環境被害は広範囲に及ぶ場合があります。粒子状物質の化学組成によって被害の性質は異なりますが、森林の健全性や土壌の質、生態系の多様性の低下に加え、水の酸性化などが挙げられるほか、気候変動への関与も指摘されています。

このように、浮遊粒子状物質の問題は世界規模で重要であり、その研究は広く進められています。そしてこの事態をさらに促進させるのが、大気粒子の各成分の測定及び定量化、並びにその物理的特性と成分間の化学的相互作用の研究を可能にする技術の発達です。一方で、浮遊粒子状物質の各化学成分の相対的な重要性や、それらが気候及び健康に及ぼす総合的な影響の大きさは未だ明らかにされていません。

最近の研究では、二次生成有機エアロゾル(SOA)及び鉱物性粉じんの水性混合物中で、大気化学及び生理化学において極めて重要である活性酸素種の生成について検討が行われました5。

SOA(微小粒子及び超微小粒子)は、植物起源及び人為起源の気体状の揮発性有機化合物が酸化することで生成されます2,3。鉱物性粉じんは乾燥地域や半乾燥地域で発生し、時には何千キロも輸送されます4。大気粒子状物質の大部分をこのSOAと鉱物性粉じんが占めるにも関わらず、これら2つの主要成分間の相互作用や雲化学及び公衆衛生に及ぼす影響については十分に解明されていません。

スピントラップ法、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)及び動力学モデルと、Bruker社製EMXplus-10/12型CW-EPR分光計を用いた電子常磁性共鳴(EPR)分光法を組み合わせた分析により、SOA及び各種鉱物性粉じんの水性混合物中では相当量の活性酸素種が生成されることが分かりました。これは、SOA中の有機ヒドロペルオキシドの分解によるものと考えられます。

Bruker社の機器を用いたEPR法による分析結果から、SOA及び鉱物性粉じんの吸入により肺を含む呼吸器において有害なフリーラジカルが放出され、これが酸化ストレスや、大気粒子状物質によるものと報告される健康への有害な影響の一因となる可能性を研究者らは示しています。

参考資料:

  1. Seinfeld JH and Pandis SN. Atmospheric chemistry and physics: from air pollution to climate change, John Wiley & Sons, 2016.
  2. Jimenez J, et al. Evolution of Organic Aerosols in the Atmosphere. Science 2009;326:1525–1529.
  3. Hallquist M, et al. The formation, properties and impact of secondary organic aerosol: current and emerging issues. Atmos. Chem. Phys. 2009;9:5155–5236.
  4. Huneeus N, et al. Global dust model intercomparison in AeroCom phase I. Atmos. Chem. Phys. 2011;11:7781–7816.
  5. Tong H, et al. Reactive oxygen species formed in aqueous mixtures of secondary organic aerosols and mineral dust influencing cloud chemistry and public health in the Anthropocene. Faraday Discuss 2017;200:251‑270.