新しい構造情報によって、腫瘍壊死因子αの生物活性調節の可能性が開かれます
腫瘍壊死因子α(TNFα)は、多様な生物学的作用を調節する多能性サイトカインです。TNFαの正確な機能は分かっていませんが、関節リウマチやクローン病などの慢性炎症性疾患患者の血中濃度が高く、TNFαが、このような疾患の発症において一定の役割を担っていることを示唆しています。
TNFαに炎症機能のあることは、広範な炎症性疾患の治療で抗TNFα剤にベネフィットがあることを示した臨床データによって裏づけられています。インフリキシマブやアダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴルなどの生物学的抗TNFα薬は、クローン病や関節リウマチ、また乾癬などの慢性炎症性疾患で顕著な有効性を示しています。
生物学的抗TNF治療薬は炎症性疾患の治療を劇的に変えましたが、注射部位反応や、結核やリンパ腫などの重大な感染症発現リスクの上昇と関連しています1。
よって、炎症や癌のリスク上昇という点で安全な治療域が拡がり得る小分子を使って、同様の効果を達成する可能性を調査する研究が多数行われています。
この研究の主要な部分は、小分子を使ってTNFαの活性を修正する可能性を探る構造解析です。TNFαは、TNFα受容体と結合する三量体の形成に関連する3つの単量体単位からなります。
免疫酵素分析は、TNFαが不活性な単量体と活性の三量体間を容易に切り替わることを実証しています2。この変換は濃度に依存しており、濃度の高い領域には三量体フォームが一時的に現れます。
TNFαの阻害剤は、配座変化を引き起こして活性の三量体から不活性の単量体への変化を切断することによって機能するようです3。研究者らは、TNFα三量体に、安定化してNFαの活性度を抑制し得る、不活性な配置(構造)があるかどうかを特定しようと意欲的でした。
三量体の構造配置を、その構成要素である単量体に解離する直前に判断することによって、ねじれた不活性の三量体が安定化させるのに適した小分子を探せるようになるかもしれません。
最近、ヒトTNFα三量体の本来の配座を調査するために、三量体内のプロトマーの動きの解明に適した手法である電子-電子二重共鳴(DEER)法が、部位特異的スピン標識と同時に使用されました4。
DEERの分析には、ブルカーBioSpin E580 ESRが採用されました。QバンドELDORの全パルスが、ブルカーSpinJet任意波形発生器とブルカーTE01δ誘電共振器を用いて実行されました。連続波ESRの実行には、ブルカーBioSpin SHQE-W TE011-モード円筒共振器が使用されました。
その結果、これまで報告されなかった、三量体のpredeoligomerizationが判明しました。TNFα三量体のこの新たな構造的配置の同定の中で、単量体の1つを回転させて外側に傾けました。三量体の解離につながったのはこの単量体の動きで、TNFα受容体の結合が妨げられました。
この新しい構造は、TNF受容体が結合できない(また小分子の場合も有効でない)ねじれた三量体を安定化させてTNFαの生物活性を調節する機会を提供するでしょう。
参考文献
1. Ding T and Deighton C. Complications of Anti-TNF Therapies. Future Rheumatol. 2007;2(6):587‑597.
2. Corti A, et al. 1992. Oligomeric tumour necrosis factor a slowly converts into inactive forms at bioactive levels. Biochem. J. 1992;284:905–910.
3. Alzani R, et al. Mechanism of suramin-induced deoligomerization of tumor necrosis factor a. Biochemistry. 1995. 34:6344–6350.
4. Carrington B, et al. Natural Conformational Sampling of Human TNFα Visualized by Double Electron-Electron Resonance. Biophysical Journal 2017;113:371–380.