マイクロプラスチック分析

マイクロプラスチックが高濃度で検出される場所は月単位で増え続けています。マイクロプラスチック汚染の分析は困難な作業ではあるものの、その重要性は高まるばかりです。

マイクロプラスチックとは?
 

一般的に、直径 5mm 以下のプラスチック片や粒子をマイクロプラスチック粒子(MP または MPP)と呼びます。マイクロプラスチックは、その起源によって、一次粒子と二次粒子に分けられます。マイクロプラスチックは、河川敷、北極の氷、天然肥料、土壌に存在し、飲料水に含まれることもあります。マイクロプラスチックは、この数十年の間に、人間の食物連鎖にさえ入り込んでいます。つまり、マイクロプラスチック粒子はどこにでも存在するため、その解決は、私たちの環境にとって非常に大きな課題となっています。

マイクロプラスチックはどこから来て、どのような影響を与えるのでしょうか?

マイクロプラスチック粒子は、一次粒子と二次粒子に分類されます。一次粒子は、例えば化粧品のピーリング粒子のように、特定の目的をもって製造されたものです。

二次粒子は、比較的大きなプラスチック部品が物理的、生物的、化学的に変性または劣化することで形成されたもので、環境中に放出されるマイクロプラスチックの最も大きな原因となります。不適切に処理されたプラスチック廃棄物の分解、タイヤの摩耗、合成繊維の洗濯屑などがその代表的な要因です。

海洋生物への脅威はほぼ理解されているものの、現状ではその全容を把握することはできていません。しかしながら、マイクロプラスチックが魚類等の海洋生物の体内に取り込まれると、食物連鎖全体が汚染され、当然のことながら我々人間にも影響を及ぼします。マイクロプラスチックには有害な可塑剤が含まれている可能性があり、また他の有機汚染物質が吸着することもあるため、長期的な影響は計り知れません。

FT-IR 顕微鏡を用いたマイクロプラスチックの分析方法については、こちらをご覧ください。

マイクロプラスチックはどのように検出され、分析されるのでしょうか?

光学顕微鏡による観察はマイクロプラスチックを検出するための基本的な方法ですが、残念ながら材料の特定に必要となる化学情報は得られません。しかし、材料の識別は、発見されたマイクロプラスチックの起源や影響を調査する上で必要不可欠です。このため、マイクロプラスチックの専門家は、顕微 FT-IR イメージングと機械学習による評価ツールの組み合わせに着目しています。これにより、粒子の完全な特性評価が可能になり、人的ミスを排除し、信頼性と再現性のある結果を得ることができます。

マイクロプラスチックの最適な分析方法とは?

マイクロプラスチック解析の典型的なワークフロー:

マイクロプラスチックの分析に関わる基本的なステップ。試料は、まず採取された場所に応じて調製し、酸化アルミニウムなどの適切なフィルターで濾過し、FT-IR イメージング測定を行い、そのデータについて機械学習法により評価します。

マイクロプラスチックの化学分析は、通常、それらを含む水の処理から始まりますが、その方法は採取された場所等によって異なります。調製された試料水を赤外線に透過なフィルターで濾過し、フィルターに残ったすべての粒子について、FT-IR イメージングによって一気に測定します。その後、スペクトルイメージデータを、堅牢な機械学習アルゴリズムによって解析します。

顕微 FT-IR は、マイクロプラスチックの分析において最も一般的なアプローチ法です。ワークフローは非常にシンプルで、特にフォーカルプレーンアレイ検出器/FPA によるFT-IR イメージング法は、精度と信頼性、そして分析スループットに優れる最先端のソリューションです。FT-IR のセットアップについての詳細については、顕微 FT-IR のページをご覧ください。

なぜマイクロプラスチック分析には FT-IR イメージングなのか?

FT-IR イメージングの強み

赤外線(IR)の吸収パターンは物質ごとに異なるため、それを知ることはマイクロプラスチック粒子の識別においても非常に有用です。FT-IR の基礎知識については、こちらをご覧ください。

FT-IR の最大の利点は、その扱いやすさと信頼性の高さにあります。どのような種類のプラスチック粒子でも、色の濃淡や蛍光性、あるいは充填物の有無等に関わらず、簡単な操作で分析することができます。

真のイメージング検出器ならではの分析レベル

さらに、FT-IR にイメージング検出器(フォーカルプレーンアレイ、FPA)を組み合わせることで、分析のスピードと信頼性が飛躍的に向上し、ルーチン作業の手軽さでマイクロプラスチックの分析が可能となります。FT-IR イメージングの詳細については、こちらをご覧ください。

FT-IR イメージングは、測定結果に悪影響を与えることなく、フィルターでサンプリングした多量の粒子試料のすべてを、高速かつ全自動で分析することを可能にします。

高精度なマイクロプラスチック分析は、適切なハードとソフトウェアの組み合わせから

マイクロプラスチックの分析には、測定装置に加えて、ソフトウェアも重要となります。実測データを各種ポリマーの標準スペクトルで構成されるスペクトルライブラリーと照合することで、それぞれのマイクロプラスチックの定性を行い、さらに粒子のサイズや数、同一性等に関する統計的分析を行うのが一般的ですが、信頼性が高く堅牢な解析結果を求めようとすると、ライブラリーのスペクトル数は膨大となり、解析速度は大幅に低下してしまいます。


しかし、マイクロプラスチック分析をスケーラブルでルーチン的なものにするためには、データ解析の高速化と、そして何よりもインテリジェントな機能が必要となります。そこで登場するのが、FT-IR イメージングの持つ大きな可能性を十分に引き出す、最先端の AI 技術と機械学習機能による新たな解析手法です。


ここでは、測定した各粒子のスペクトルを個別に解析するのではなく、AI によるアルゴリズムが FT-IR イメージデータに含まれるすべての情報を一括で処理します。これにより、解析スピードが桁違いに速くなり、信頼性がさらに高まります。ブルカーでは、このソフトウェアの開発者でありブルカーのパートナーでもある Purency 社と提携し、とくに分析件数の多いラボや研究者のためのトータルソリューションツールとして、最新のハードウェアと共にお届けしています。

FPA 検出器による FT-IR イメージングがマイクロプラスチック分析における最終的かつ標準的なツールである理由をご紹介します。
Martin Löder 博士と Christian Laforsch 教授が率いるチームは、ドイツでも有数のマイクロプラスチック分析ラボを運営しています。
スペインの川で採取した堆積試料の顕微鏡画像。黒色の細長い繊維を確認。顕微 ATR 法により、前処理なしで直接分析することも可能です。

FT-IR によるマイクロプラスチック分析の手引き

世界中のマイクロプラスチックの研究者や専門家が FT-IR イメージングに信頼を寄せていることは既に述べたとおりです。その理由は、FT-IR が提供する簡単なワークフローとスピード、そして比類のない信頼性と精度にあります。ここからは、実際のラボにおける分析の基本について、より深く掘り下げていきます。

ステップ1: 試料の前処理

まず、試料液の汚れ具合等に応じて前処理を行い、適合するフィルターで濾過します。飲料水のような非常にクリーンな試料液は、フィルターで直接濾過することも可能ですが、海水や河川の堆積物、あるいは土壌などから採取した環境試料の場合は、砂や土、植物の破片等が含まれていることが多く、FT-IR 分析の前に適切な処理が必要となります。

とくに大きな粒子を除去するために、大きさの異なる複数のフィルターを使用します。除去した大きな粒子は通常、ALPHA II などのマクロな FT-IR で分析します。一方、フィルターを通った微粒子試料については、濃度の異なる塩溶液を用いた密度分離法によって、プラスチック以外の砂や金属等の粒子を沈殿させて取り除きます。

魚や貝などから取り出された試料の場合はどうでしょうか。このような試料は、付着した有機物をすべて除去する必要がありますが、一般的には、濾過工程の前に、酵素分解や酸またはアルカリによる処理が行われます。

海岸で発見され、FT-IR 分析のために選別されたメソプラスチック。

ステップ2: 濾過

マイクロプラスチックの分析には、濾過フィルターが欠かせませんが、フィルター材としては、前述の酸化アルミニウムをはじめ、シリコン、PTFE、金コートポリカーボネートなどが用いられます。それぞれに利点と欠点がありますが、酸化アルミニウムフィルターはマイクロプラスチックの FT-IR 分析における標準的な存在で、ブルカーのホームページやビデオ等でも標準品として採用しています。

マイクロプラスチックを濾過した酸化アルミニウム製フィルター。

ステップ3: FT-IR イメージング解析

FT-IR において汎用的な3つの測定モード(透過、反射、ATR)のうち、マイクロプラスチック分析に最も適しているのは透過法です。ATR も非常に精度の高い手法ですが、接触法であるため、測定後に ATR プリズムに試料粒子が残ってしまうことも多く、自動測定には不向きです。反射法では、粒子の形状等によりスペクトルにアーチファクトが発生することもあり、信頼性が低下しがちです。これらに対して、透過法は試料と非接触で測定が可能であり、また比較的短時間で良好なスペクトルが得られやすい手法です。

同じマイクロプラスチックフィルターに関する FT-IR イメージングの測定結果。

ステップ4: 粒子の分類とデータ評価

マイクロプラスチック分析における機械学習の利用は増加傾向にあり、それに伴い、誰もが簡単に信頼性の高いデータ評価を行えるようになりつつあります。ブルカーでは、古くからのパートナーである Purency 社と協力し、マイクロプラスチックファインダー(MPF)を数多くの研究者に提供しています。MPF は、マイクロプラスチック試料に関する FT-IR イメージングデータを、短時間で自動的に解析するソフトウェアです。マウスをワンクリックするだけで、僅か数分で、フィルター上のすべての粒子がサイズ、数、識別によって分類され、包括的な統計データが得られます。

MPF の分類アルゴリズムは、さまざまなマイクロプラスチックの研究者によって評価された実際のスペクトルデータを用いて訓練されています。つまり、MPF は、数多くの専門家の知識を用いた解析を可能にするソフトウェアであると言えます。MPF は、マイクロプラスチックのルーチン分析に最適なツールであり、将来的には業界標準となり得る有望なソフトウェアです。世界中の異なる研究所や分析機関の間においても、人為的なミスやバイアスによる解析結果の変動を完全に排除した、普遍的な分析を保証します。

Purency 社のマイクロプラスチックファインダーによる粒子統計。