半導体用途において、シリコンは電気特性の精密な制御が可能であり、シリコン酸化膜などの絶縁体との相性が良く、熱伝導性にも優れるため、広く採用されています。一方で、デバイスの信頼性と性能を確保するには、シリコン内部の応力・歪みの評価が不可欠です。本アプリケーション例では、ラマン分光法を用いてシリコン材料の応力・歪みを評価しました。
ラマンイメージングは、シリコン結晶内の応力分布を可視化できるため、欠陥や歪みの解析に有効です。シリコンに圧力が加わると結晶構造が変形し、ラマン散乱光の周波数が変化します。この周波数シフトを解析することで、応力分布の情報を得ることができます。圧縮応力では周波数シフトが増加し、引張応力では減少する傾向が確認できます。ラマン分光法はこれらのシフトを高精度に測定し、材料の応力・歪みを定量的に評価します。
図Aは、ラマンピークシフトのイメージとして示したもので、カラースケールによりシリコン基板上の応力分布を可視化しています。これは、基板上の薄膜周辺におけるシリコンピーク位置の変化を、特定の面内で解析した結果です。図Bおよび図Cでは、点線に沿ったシリコンピークのシフトをプロットしており、RAMANtouchにより0.1cm-1以下の精度でピーク位置を特定できることが示されています。
アモルファスシリコンは、パルス加熱RTA(急速熱処理)によってアニールされることで結晶化し、薄膜結晶シリコンが形成されます。この処理により、太陽電池、ディスプレイ、センサーなどに求められる電気的・光学的特性が向上します。完全な結晶化は、特性の改善と欠陥密度の低減に不可欠です。
RAMANtouchを用いて、アニール前後のシリコン薄膜における結晶化とアモルファス領域の分布を可視化しました。また、アニール後の薄膜内に形成された粒界の分布も解析しています。さらに、結晶化プロセスが電気的・光学的特性にどのような影響を与えるかについて、より深く理解する為に、ラマンピークの微細なシフトを高精度に解析することで、薄膜内の結晶化の進行度を定量的に評価しました。
上の図では、アニール前のシリコン薄膜の光学顕微鏡像と、結晶化領域とアモルファス領域のラマンイメージングを示しています。下の図は、アニール後のシリコン薄膜における粒界分布を示しています。光学顕微鏡では均一に結晶化しているように見えますが、ラマンピーク位置のシフトを可視化することで、結晶化が均一ではないことが明らかになります。RAMANtouchは0.1cm-1を超える高精度でピークシフトを解析でき、こうした詳細な評価を可能にします。