クライオプローブ

BioSolids CryoProbe

試料に手を加えずに感度向上

NMR は非常に汎用性が高い反面、感度が低いという課題があります。試料に手を加えずに感度を向上するための1つの方法は、RFコイルとプリアンプのエレクトロニクスを極低温に冷却することです。RF コイル、ネットワーク、プリアンプによって発生するサーマルノイズを低減することで、サンプルを本来の組成のまま、自然な線幅で、S/N 比を 3倍向上させることができました。この結果は、ブルカーで初の600MHz 3.2mm HCN三重共鳴CPMAS CryoProbeプロトタイプで得られた結果です。  

このプローブは、スタンダードボア磁石用に設計されており、溶液NMRで実績のあるクライオプラットフォームを冷却システムとして採用しているためスムーズに稼働します。RFコイルとプリアンプのエレクトロニクスを極低温に冷却することで、従来のプローブと比較して3倍以上の感度を得ることができます。この感度向上は、室温のサンプルで達成できます。

このプローブは、3.2mmローターとMAS3ユニットとの組み合わせで、20kHzのMAS周波数に到達します。CPMAS CryoProbeは、新しいプローブリフターにより、低温状態のままで磁石からプローブを出し入れすることができ、ローターの交換を簡便かつ安全に行うことができます。自動チューニングとマッチングにより、快適で安全な操作性を実現します。

技術内容

•¹³Cおよび¹⁵N に最適化された三重共鳴NMRプローブ

•¹³C および¹⁵N の感度を 3倍以上に向上

•データ取得が1桁向上し、生産性が大幅に向上

•強力なプロトンデカップリング下での¹³Cと¹⁵Nの同時照射が可能

•安定同位体標識率の低い分子や安定同位体が天然存在比の低分子バイオソリッドの研究に理想的

•自動チューニング、マッチング、マジックアングル調整とリフトアシストによるサンプル交換

•サンプル温調範囲:-20℃~+60℃

•特別に設計された3.2 mmのローターによる20kHzまでのMAS周波数

•スタンダードボア設計、SB・WB磁石対応

アプリケーション

BioSolids CryoProbeは生理学的な温度条件で、サンプルの組成を変えることなく、研究が困難な生物学的システムの研究を可能にします。

生物学的機能を維持するためには、周囲のタンパク質の完全性と温度が重要であることが多いため、この特性は構造生物学において非常に重要です。

本来の環境にある標識されたタンパク質、混合物中の低分子のような希釈されたサンプル、そして天然存在比あるいは標識レベルの低いサンプルは、この革新的なプローブによって感度が大幅に向上するという恩恵を受けます。

薬理学の分野では、このプローブを用いることでNMR実験の選択肢を拡張することができます。天然存在比の医薬品有効成分の高度な特性評価のために、二次元¹³C¹³C相関実験を日常的に使用することができます。その他のアプリケーションとして、薬物の結晶多型やドラッグデリバリーシステムなどもあります。

高速データ取り込み
アミロイド線維とプリオン

〜96.7 mg(u-¹³C,¹⁵N)HET-s(218-289)プリオンドメイン。フランスのボルドー、CNRSのA.Loquet教授のご厚意で掲載。

感度が向上したことで、スペクトルの測定が1桁早くなり、わずか1回のスキャンで、驚異的なS/Nと分解能でスペクトルを測定することが可能になりました。

データ収集の高速化
アミロイド線維とプリオン

〜96.7 mg(u-¹³C,¹⁵N)HET-s(218-289)プリオンドメイン。フランスのボルドー、CNRSのA.Loquet教授のご厚意で掲載。

感度が向上したことで、スペクトルの測定が1桁早くなり、たった1回のスキャンで、驚異的なS/N比と分解能でスペクトルを測定することが可能になりました。

これにより、多次元実験のセットアップや測定にかかる時間を大幅に短縮することができます。

一次元分の時間短縮
アミロイド線維とプリオン

〜96.7 mg(u-13C、15N)HET-s(218-289)プリオンドメイン。フランスのボルドー、CNRSのA.Loquet教授のご厚意で掲載。

BioSoldis CryoProbeの高感度化により、スキャン回数を大幅に減らすことが可能となりました。その結果、多次元実験が高速でできるようになりました。三次元の実験を、通常二次元実験を行うのに必要な時間と同じ時間で行うことができます。また、測定時間が長すぎるために通常は行われない四次元の実験も、1週間以内の実験時間で行うことが可能となりました。

感度が低いサンプルの探索
大きい生物学的集合体

~ 7.5 mg の U -¹³C、¹⁵N - 標識化された Kif5b、349残基のタンパク質、微小管との複合体。総サンプル量~80 mg。アメリカ、Delaware大学のT.Pollenova教授のご厚意で掲載。

感度向上により、より複雑であったり、標識が十分でない、より難易度の高いサンプルが研究者の焦点となっています。

我々は、約350残基の標識タンパク質と非標識タンパク質で構成された複合体サンプルを用いて、三次元NCACXおよびNCOCX実験を行いました(同位体標識物質の総量は〜9%)。
実験はそれぞれ5日間及び6日間行われ、全てのRFチャンネルを用いた多重共鳴実験で、数日間のプローブの安定性を実証しました。

自然環境の生物試料
マイコバクテリアの細胞外皮

~ 40 mg ¹³C、¹⁵N標識細胞壁、HEPES 50 mM pH 7.0。フランスのグルノーブル大学のJ.P.Simorre教授のご厚意で掲載。

感度向上により、研究者は、固体NMRを用いて細胞内を直接観察することができます。

このプローブは、時間の経過とともに急速に劣化する不安定なサンプルに対して、ゲームチェンジャーとなるものです。不安定なサンプルでは、生成してすぐに、全てのデータを収集できることが重要です。

安定同位体が天然存在比の天然物
木材とセルロース

ボルドーのワインの木からの木材。フランスのボルドーにあるCNRSのA.Loquet教授のご厚意で掲載。

木材やその他のセルロースを多く含むサンプルは、一般的に非晶質と結晶質が混在しているため、シャープなシグナルとブロードなシグナルが混在しています。一次元の¹³C実験では、重なり合った異なるスペクトル成分を区別するのは容易ではありません。二次元の CC相関実験で分解能を向上させることが、スペクトル成分を帰属するための唯一の実行可能な方法である場合があります。BioSolids CryoProbeの感度が向上したことで、refocused INADEQUATEは日常的なツールとなります。

安定同位体が天然存在比の天然物
骨マトリックス内の天然のコラーゲン

ヤギ(Capra hircus, 2-3歳)の皮質大腿骨。インドの生物医療研究所のN.Sinha博士のご厚意で掲載。

健康な状態と疾患状態での、本来の自然状態のコラーゲンの構造的・機能的な挙動を理解することは、様々な骨変性疾患、組織工学、骨インプラントの治療法開発のためのマイルストーンとなります。コラーゲンの天然のスペクトル強度では一般的に感度が低く、同位体の濃度も限られています。

本プローブの高感度化により、天然同位体含有量のコラーゲンの高分解能二次元¹H-¹³C HETCOR実験の記録が可能になりました。短い接触時間と長い接触時間で記録されたスペクトルは、骨マトリックス内部のコラーゲンが本来の環境でどのように相互作用しているのかを明らかにしています。このプローブを用いて、研究者らは、骨マトリクス内部のコラーゲンの構造安定性と機能メカニズムの理解に向け、一歩前進しました。

医薬品有効成分のin-situ特性評価
シクロデキストリン系金属有機フレームワーク(CD-MOF)

20%のLansoprazoleをロードさしたCDMOF粒子。フランス のベルサイユ研究所ののC.Martineau-Corcos教授のご厚意で掲載。

ドラッグデリバリーのためのマトリックスは、多くの場合、スポンジのような多孔質材料です。金属-有機フレームワーク(CD-MOF)はその良い例で、巨大な空孔(?)を持つ材料です。MOFにロードされた薬物は、核スピンが希釈された状態にあり、そのことにより感度不足が有効成分のin-situ特性評価の大きな問題となっています。

これまでのところ、クライオプローブの技術が、この種のサンプル中の、低いAPI含有量を探索することができる唯一のツールであることは、注目すべき点です。高速MAS 1H NMRやDNPのような他のアプローチは、分解能の不足と、DNPのサンプル調製に使用される溶媒中でのCD-MOFの不安定性のため、適していないか、または限られた使用法であることが確認されています。

A) ビタミン B12 B) 2D 13C-13C 自然豊富ビタミン B12 に不十分.80増分1024は、それぞれをスキャンし、3日と9時間の合計実験時間内に取得した。スペクトルは共分散を使用して処理されました。

APIの高度な特性評価

プローブの優れた感度によって、安定同位体標識に頼らずに原薬の高度な特性評価を行うことができます。これは、安定同位体が天然存在比のビタミンB12のCC二量子相関で示されています。refocused INADEQUATEは感度が低いことで知られており、室温プローブでは1ヶ月以上の測定時間が必要でした。

グリシンと13Cの標準的な信号対雑音比較は、サンプル材料の同量を有する従来の室温プローブと比較して3倍以上の増強因子を示す。スペクトルは、魔法の角度が十分に設定されており、1Hの高出力デカップリングが安定していることを示しています。

CPおよびダブルCP実験

CPMAS CryoProbeは、構造生物学の標準的な実験と高度なCPベースの実験のために開発されました。

高感度とNUSを組み合わせることで、スペクトル分解能を大幅に向上させたり、実験時間を短縮することができます。A)は、従来のサンプリング(〜4h)を用いて均一に標識されたfMLF上のCC相関を示し、B)は25%NUSサンプリング(〜1h)を用いて同じ実験を示す。

高感度とNUSの組み合わせ

新しいプローブの高感度とNon-Uniform Sampling技術の組み合わせにより、実験時間の大幅な短縮が可能となりました。CPMAS CryoProbeは、感度が限られているサンプルのスペクトル測定を最大10倍高速にします。

サービスとサポート

LabScape

磁気共鳴および前臨床イメージング向けのサービスとライフサイクルサポート

ブルカーは、最初のお問い合わせから評価、据え付け、その後装置が寿命を迎えるまでの購入サイクル全体を通して、お客様に比類のないサポートを提供することをお約束します。LabScapeサービスコンセプト

LabScapeの保守契約、オンサイト、オンデマンドおよびEnhance Your Labは、現在の実験室に適した保守とサービスを行うために、新しいアプローチを提供するよう設計されています。

出版物

1.NPM1 exhibits structural and dynamic heterogeneity upon phase separation with the p14ARF tumor suppressor
Eric Gibbs, Barbara Perrone, Alia Hassan, Rainer Kümmerle, Richard Kriwacki.
Journal of Magnetic Resonance, 2020, 310, 10646

2.Sensitivity Boosts by the CPMAS CryoProbe for Challenging Biological Assemblies
Alia Hassan, Caitlin M.Quinn, Jochem Struppe, Ivan V.Sergeyev, Chunting Zhang, Changmiao Guo, Brent Runge, Theint Theint, Hanh H.Dao, Christopher P. Jaroniec, Mélanie Berbon, Alons Lends, Birgit Habenstein, Antoine Loquet, Rainer Kuemmerle, Barbara Perrone, Angela Gronenborn, Tatyana Polenova.
Journal of Magnetic Resonance, 2020, 311, 106680

3.Efficient incorporation and protection of lansoprazole in cyclodextrin metal-organic frameworks
Xue Li, Marianna Porcino, Charlotte Martineau Corcos, Tao Guo, Ting Xiong, Weifen Zhu, Gilles Patriarch, Christine Péchoux, Barbara Perrone, Alia Hassan, Rainer Kümmerle, Alexandre Michelet, Anne Zehnacker-Rentien, Jiwen Zhang Ruxandra Gref.
International Journal of Pharmaceutics, 2020, 585, 119442

4.Probing short and long-range interactions in native collagen inside the bone matrix by BioSolids CryoProbe
Nidhi Tiwari, Sebastian Wegner, Alia Hassan,  Navneet Dwivedi, RamaNand Rai, and Neeraj Sinha.

Accepted in Magnetic Resonance in Chemistry