ラマンの基本

ラマンイメージング入門

ラマンイメージングの基本原理を簡潔に解説し、三次元ケミカルイメージングに関する基本的な質問に焦点を当てています。
はじめに

ラマンイメージングとは?

ラマン分光法の基本

ラマンイメージングは、ラマン分光法と顕微鏡技術という二つの強力な分析手法を組み合わせることで構築されており、微細構造の高精度な化学分析を可能にします。

ラマン分光法では、単色レーザー光の非弾性散乱に含まれる情報を利用して、物質の化学的性質を分析します。このプロセスは、試料を破壊せず、接触することなく実施できるのが特長です。

ラマン分光法の基本

従来より、光学顕微鏡は極めて小さな試料を扱うものです。例えば、直径1 µmの粒子を分析するために100倍の対物レンズを使用する状況を想像してみてください。

この顕微鏡にラマン分光分析装置を組み込むことで、この微小粒子の化学分析を行うことが可能になります。さらに、このスペクトルデータと顕微鏡から得られる2次元または3次元の空間情報を組み合わせると、ラマンイメージングを作成することができます。

ラマンイメージング について

従来のイメージングは、顕微鏡の微小な測定スポットを決めて、次に試料をステージ上で順次移動させることで、位置ごとのスペクトル情報が取得していきます。ブルカーの最新機種では、ステージを固定してレーザースポットまたはレーザーラインを走査する方法で、より高精度に位置ごとのスペクトルを取得しています。

対物レンズの倍率により1度のレーザースキャンで測定できる範囲が決まります。エリアを選択してレーザーのスキャンステップを選択することで空間分解能が決まります。例えば100倍の対物レンズを選択した場合は1度のスキャンで80×80µmの範囲まで化学組成の分布を可視化した「ラマンイメージ」を生成することが可能です。レーザースキャンの方法はリニアに操作する方法とランダムにスキャンする方法が選択可能です。さらに広範囲のイメージを作成する場合は隣のエリアにステージを移動してイメージを取得してパッチワークのようにつなぎ合わせます。

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ラマンイメージとは?

ケミカルイメージには、CCD検出器のピクセルごとに取得した分子情報が含まれています。ラマンイメージの場合はピクセルごとの完全なラマンスペクトルから得られる分子情報によって生成されています。すなわち、、必要に応じて、これらのスペクトルデータの化学的解釈によって得られた化学構造や組成など試料の特性を強調して可視化するために、疑似カラー画像を生成することが可能です。

スペクトルデータの解析は、さまざまな手法で行うことが可能であり、特定の分析目的に応じて柔軟に応用されます。代表的な例として、試料の特性を強調・可視化するために疑似カラー画像を生成する手法があります。これにより、試料の化学構造や組成を視覚的に明確に表現することが可能となります。

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ラマンイメージの作成方法

こちらの動画では、SENTERRA II ラマン顕微鏡を用いたラマンイメージの作成手順をご覧いただけます。

ラマンイメージは主にラマン顕微鏡を用いて作成されます。手順は比較的単純で、関心領域内を既知の間隔で点ごとあるいはエリアごとにラマンスペクトルを取得することで、空間情報をラマンデータに付加します。この過程では、従来の装置ではレーザーを試料上の一点に集光し、試料を少しずつ移動させながら、領域全体を走査(マッピング)していましたが、ブルカーの最新機種では、ステージを固定してレーザースポットまたはレーザーラインを走査する方法で、より高精度に領域全体を走査(ポイントマッピングあるいはラインイメージング)します。

取得される空間情報は一次元、二次元、さらには三次元にも対応可能であり、試料内部の化学的構造の探索も可能です。この技術により、コーティングの均一性、成分の分布、粒子や異物の存在など、さまざまな分析的課題に対する有用な知見が得られます。

 

最後に

ラマンイメージングに関するよくある質問

 

ラマン顕微鏡の空間分解能はどれくらいですか?

ラマン顕微鏡における共焦点光学系は、収集されるラマン散乱光を空間的に選択・制限する役割を果たします。特に、共焦点ピンホールは検出される領域のサイズを制御することで、不要な背景信号を低減し、微細構造の識別を可能にする高い空間分解能を実現します。

高性能な共焦点ラマン顕微鏡の空間分解能は、最終的に光の回折限界によって制約されます。理論的な分解能は以下の式で表されます:

平面方向の空間分解能:dradial = 0.61 · λ / NA

深さ方向の空間分解能:daxial = 1.4 · λ / NA

ここで、λはレーザー波長、NAは対物レンズの開口数値です。これにより、共焦点ラマン顕微鏡はサブミクロン(約0.3 µm)スケールの微細構造の分析・評価が可能です。

ラマンイメージングとは何ですか?

ラマンイメージングは、試料の空間情報とスペクトル情報を同時に取得・可視化する技術です。各空間位置から取得されたラマンスペクトルは、画像の各ピクセルに対応する代表値へと変換され、化学的・構造的特徴を視覚的に表現します。

ラマンイメージングでは、最も一般的な手法としてピーク強度を用い、化学成分の分布や濃度を可視化します。加えて、複数ピークの強度、ピークシフト、ピーク比、ピーク幅などのスペクトル情報も、分析目的に応じて画像化に利用されます。各ピクセルの値は、グレースケールや疑似カラーで表示されるのが一般的です。

 

 

ラマンイメージ取得に要する測定時間はどれくらいですか?

ラマンイメージの測定には、多数のラマンスペクトルの取得が必要となります。そのため、数千から数百万のスペクトルを含む画像では、測定時間が非常に長くなる可能性があります。  

ラマンイメージの取得効率を高めるには、感度の向上が重要です。感度が高ければ、各スペクトルの取得時間を短縮でき、全体の測定時間を抑えることが可能です。

そのためには、試料の選定、レーザー出力、光学系の効率などを適切に最適化することが求められます。

ラマン顕微鏡で試料内部を測定することできますか?

可能です。共焦点ラマン顕微鏡は、横方向および縦方向の空間分解能が回折限界によって定義されており、深さ方向のプロファイリングや3次元ラマンイメージングが可能です。

ただし、レーザー光およびラマン散乱光が試料によって強く吸収されないことが前提となります。この条件を満たす場合、試料内部の化学分布を解析することができます。

ラマン顕微鏡は液体の分析に使用できますか?

 使用できます。ラマン分光法の大きな利点のひとつは、FTIRと比較して水のラマン散乱が非常に弱いことです。これにより、水に溶解した化合物を強い干渉なしに測定することが可能です。

液体試料は、顕微鏡用スライド上に滴下するだけで簡単に測定できます。揮発性のある試料に対しては、石英製キュベットや石英カバーガラス付きの凹型スライドを使用することで、背景信号の影響を抑えつつ、密閉状態でのラマン測定が可能です。