アプリケーション例 - 磁気共鳴

電子常磁性共鳴と原子間力顕微鏡法を組み合わせた、眼の疾患における酸化ストレスの解明

加齢に伴う多くの眼の疾患の背景には酸化的損傷があると考えられています。

加齢に伴う多くの眼の疾患の背景には酸化的損傷があると考えられており、このような損傷は酸化分子および紫外線による光酸化によって引き起こされることがあります。光に晒されると加齢黄斑変性症(AMD)のリスクが増すため、老化した眼には酸化が害を及ぼす可能性があることがわかります。

眼の酸化ストレスに最も関連する原因は完全には理解されておらず、将来的な治療につなげるためには危険因子と原因のメカニズムを確実に理解する必要があります。抗酸化物質にはAMDからの保護機能があることが知られており、関連する生物学をよりよく理解することで、安全性と有効性を向上させた医薬品の開発が可能になると考えられます。

加齢に伴う酸化的損傷に影響を与える要因の理解を深めるため、最近、ウシの眼から採取したメラニン含有メラノソームの酸化を促進する金属イオンの役割を評価する研究が行われました。ポーランドのクラクフにあるJagiellonian大学のAndrzej Zadlo博士らは、ブルカーの装置を用いた電子常磁性共鳴(EPR)分光測定、EPR酸素測定、および原子間力顕微鏡(AFM)測定を行いました。研究チームはEPRとAFMを組み合わせることで、酸化ストレスの他にメラニンの構造に生じた動的変化を特定しました。これらは、AMDを含む人の眼の様々な疾患に関連していると考えられます。

2017年4月に研究チームが発表した論文「Redox Active Transition Metal Ions Make Melanin Susceptible to Chemical Degradation Induced by Organic Peroxide(レドックス活性遷移金属イオンによる有機過酸化物に誘発されるメラニンの化学分解の促進)」では、レドックス活性金属イオン、中でも鉄が、酸化剤として知られるtert-ブチルヒドロペルオキシド(TBH)によって誘発されるメラニンの酸化的変化を加速すると述べられています。

著者らはEPRを用いることで、TBH単独ではメラニンのわずかな酸化的変化しか誘発しないことを突き止めました。しかし、ウシのメラノソームを金属イオン存在下でTBHと共培養すると、メラニンの分解は鉄イオンおよび銅イオンによって加速されました。亜鉛はメラニンの酸化に影響を与えませんでした。つまり、眼への影響がレドックス活性金属イオンに限定される可能性があると考えられます。

AFMによる分析では、酸化分解されたメラノソームが目の表面粗さを減少させ、メラニンが抗酸化剤から酸化促進剤に変わったことがわかりました。他方で、著者らはテストした金属イオンのどれを添加しても、紫外線によって誘発される酸化に変化がないことを発見しました。鉄は様々な眼の疾患に関連しており、加齢に伴う眼の疾患では鉄含有量の増加が観測されているため、これらの研究結果は生理学的に意味があります。

タンパク質の複雑な構造と機能の関係の解明を追求したこの研究では、EPRおよびAFM技術の力と、研究に使用されたブルカーの装置が注目されています。研究チームはBruker EMX-AA EPRを用いることで、老化している眼に対して脂質と金属イオンの存在下でのメラニンの酸化と分解のパターンを特徴づけることができました。

分光測定と酸素測定の両方を用いることで、Zadlo博士らは、メラニン分解に対する分子酸化剤と光酸化の相対的な寄与を決定することができました。これは、治療介入の発展を目指している研究者にとって有用な情報となり得ます。データにより、酸化的損傷の軽減を目的とした医薬品が、サングラスの使用や直射日光を避けるよりはるかに有益であると考えられています。さらに、Bruker Bio-Scope Catalyst AFMによって得られた画像は、メラノソームの表面構造に関する独自の視点を研究者らに提供しました。

EPR分光測定によって、酸素ラジカルなどの不対電子を動的に追跡調査し、タンパク質の構造と安定性に関する知見を得ることができます。EPRを使用すると、感度が向上し、核磁気共鳴(NMR)よりも短い時間で、より大きな分子の実験が可能になります。

AFMは走査プローブを使用して分子の三次元構造を決定します。これは、高エネルギーの電子ビームを使用して画像を生成する走査型電子顕微鏡(SEM)とは異なります。AFMは、特に表面が滑らかな試料や画像処理中に液体に浸す必要がある試料に関して、SEMより大きな優位性があります。

世界有数のEPRおよびAFMシステムのサプライヤーであるブルカーは、構造生物学や量子物理学などの多様な分野で用いられる高感度で正確な分光計や顕微鏡を提供しています。

参考文献:

  • Klein R, Chou CF, Klein BE, et al. Prevalence of age-related macular degeneration in the US population. Arch Ophthalmol. 2011;129:75-80.
  • Hammond BR, Johnson BA, and George ER. Oxidative Photodegradation of Ocular Tissues: Beneficial Effects of Filtering and Exogenous Antioxidants. Exp Eye Res. 2014;129:135-50.
  • Köberlein J, Beifus K, Schaffert C, et al. The economic burden of visual impairment and blindness: a systematic review. BMJ Open. 2013;3:1-14.
  • Sui GY, Liu GC, Liu GY, et al. Is sunlight exposure a risk factor f or age-related macular degeneration? A systematic review and meta-analysis. Br J Ophthalmol. 2013;97:389-394.
  • National Eye Institute. NIH study provides clarity on supplements for protection against blinding eye disease. https://www.nei.nih.gov/news/pressreleases/050513.