アプリケーションノート -  磁気共鳴

SARS-CoV-2ウイルスを不活性化するための血液サンプルの加熱によるバイオマーカー同定失敗の可能性 *

IVDrプラットフォームを用いた1H-NMR代謝プロファイリングにより、COVID-19/SARS-CoV-2血漿サンプルを中心とした分析アーティファクトを最小化するために、推奨する手法を提供しています。

* 研究用途限定。臨床診断用にはご利用いただけません。

IVDrプラットフォームを用いた 1H-NMR代謝プロファイリングにより、COVID-19/SARS-CoV-2血漿サンプルを中心とした分析アーティファクトを最小化するために、推奨する手法を提供しています。

核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて血漿を定量し、試料採取と試料調整の段階におけるばらつきが、得られる結果に及ぼす影響を体系的に調査しました。健康なボランティアとSARS CoV-2に感染した患者から採取した血漿サンプルを、異なるサイズのチューブに入れ、異なる凍結保存剤を使用し、様々な温度で異なる期間保存したものを、Avance IVDrシステム(Bruker Avance III HD 600MHz NMR)を用いて、1H-NMRベースの血漿メタボロミクスを行いました。サンプルは標準的な手順に従って調製され、ブルカーの体液NMRメソッドパッケージB.I.Methods 2.0を用いて全自動で測定されました。リポタンパク質の定量的なプロファイルは、Bruker IVDr Lipoprotein Subclasses Analysis B.I.LISAツールを使用して得られました。

採血管のサイズと凍結保存剤の違い、連続した凍結融解サイクル、短期および長期のサンプル保存温度、加熱処理がリポタンパク質と代謝物の定量値のパターンに及ぼす影響を調査しました。得られたNMRデータを比較したところ、血漿サンプルを4℃で48時間まで保存、-80℃で凍結、また採血管の選択は、観察された代謝パターンに大きな影響を与えないことがわかりました。また、4℃で168時間保存しても、情報の損失はほとんどありませんでした。

一方、熱処理(56℃×30分:高度なバイオハザード対応施設を持たない研究所でSARS CoV-2を不活化するために用いられる標準的なプロトコル)を行った試料では、存在する代謝物に顕著で複雑な変化が見られました。このような熱処理は、分析の前に一般的に行われており、リポタンパク質を分解し、代謝情報を変化させることが示されました。健康な人の血漿サンプルで観察された変化は、SARS CoV-2に感染した患者のサンプルで観察された変化とは大きく異なっていました。このような違いは非常に重要であるため、事実に反する擬似バイオマーカーが同定されたり、真のバイオマーカーが見落とされたりする可能性があります。従って、加熱処理された試料から得られたSARS CoV-2に関するデータは、ほとんど解釈できずに、研究価値が限られることになります。

現在のNMRを用いた血漿メタボロミクスの研究では、生化学データの信頼性が、サンプル採取、サンプル調製、分析のプロトコルの質と正確性に決定的に依存することが明らかになっています。

Link: https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.jproteome.0c00537