アプリケーションノート -  磁気共鳴

NMR-MSによる代謝フェノタイピングがSARS-CoV-2感染による多臓器への影響を示唆 *

*published by "https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jproteome.0c00519"

Integrative NMR-MS Modelling of Quantitative Plasma Lipoprotein, Metabolic, and Amino Acid Data Reveals a Multi-organ Pathological Signature of SARS-CoV-2 Infection のタイトルで公開されています。https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jproteome.0c00519

NMRおよびLC-MSを用いた代謝表現型(フェノタイプ)が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染によるヒト血漿における代謝影響の特徴を明らかにするために応用された例をご紹介します。

メタボロミクス解析は、SARS-CoV-2ウイルスに陽性反応を示したCOVID-19患者(n=17)から採取した血液サンプルの主要な脂質およびタンパク質成分を定量化し、年齢と性別をマッチさせた対照群(n=25)と比較するために用いられました。全ての血漿サンプルは、標準的な手順に従って調製し、Avance IVDrシステム(Bruker Avance III HD 600MHz NMR)を用いて1H-NMRで分析しました。分析は、ブルカーの体液NMRメソッドパッケージB.I.Methods 2.0を用いて全自動で行い、リポタンパク質サブフラクションの定量的な測定は、ブルカーIVDr Lipoprotein Subclasses Analysis B.I.LISAツールを用いて行いました。

COVID-19の患者から得られたサンプルには多くの代謝異常が見られたため、健康なサンプルとは高いレベルで識別することができました。SARS-CoV-2ウイルスに感染すると、α-1 acid glycoproteinレベルの上昇やキヌレニン/トリプトファン比の上昇など、炎症マーカーの増加が見られました。また、糖尿病や冠動脈疾患を示唆するようなグルコースやリポタンパク質のプロファイルの異常も見られました。高密度リポタンパク質トリグリセリドの濃度は低く、低密度リポタンパク質トリグリセリドと超低密度リポタンパク質トリグリセリドの濃度は高くなりました。さらに、肝機能障害に関連する複数の有意なアミノ酸マーカーの上昇が明らかになり、グルタミン/グルタミン酸比やフィッシャー比も上昇しました。

これらの主要な代謝物の変化は、SARS-CoV-2感染の明確な代謝シグネチャーとなりました。観察された代謝プロファイルをもとに、O-PLS法を用いて、NMR-MSハイブリッドモデルを構築しました。さらに、SARS-CoV-2陽性患者と対照群のサンプルを用いてモデルを検証しました。このハイブリッドNMR-MSモデルは、SARS-CoV-2感染に対して100%の感度を示し、SARS-CoV-2ウイルスに感染したサンプルの代謝を識別するための非常に強力なツールであることが示されました。

この研究により、SARS-CoV-2の感染の型が明らかになりました。SARS-CoV-2ウイルスを含むサンプルで観察された広範な代謝作用は、このウイルスが多くの生化学的経路を乱していることを示しています。SARS-CoV-2の感染の型には、肝機能障害、脂質異常症、糖尿病、冠状動脈性心臓病などの要素が含まれています。今回の代謝に関する知見は、COVID-19が複数の臓器や器官に影響を及ぼす全身性疾患であるという最近の臨床報告を裏付けるものです。

ブルカーのNMRシステムは、臨床診断用にはご利用いただけません。