アプリケーションノート -  磁気共鳴

粉末化した錠剤の結晶/非晶質状態をTD-NMRで明確に識別

「我々の知見から得た結論は、TD-NMRは有効成分の結晶状態を評価する画期的な手法だということです」

「我々の知見から得た結論は、TD-NMRは有効成分の結晶状態を評価する画期的な手法だということです」

医薬品を投与する最も簡単な方法は経口投与です。患者にとって利便性が高く、滅菌も医療用具も必要としません。そのため経口製剤は、可能な限り全ての場面で用いられています。ただし、経口投与の成否は製剤の溶解性に依存します。固形製剤として投与される医薬品のバイオアベイラビリティは、消化管内での溶出速度に大きく左右されます。

近年の医薬品開発の進歩に伴い、水に溶けにくい有効成分(API)が増えています。スクリーニングプログラムで特定される新薬候補の70%は低溶解性であり、最近上市された即放性経口製剤のAPIの40%は不溶性に分類されると推定されています。そのような低水溶性API(100 μg/mL以下)は胃腸液中で溶出しにくいことから経口吸収効率が悪く、従ってバイオアベイラビリティが低いのですが、そうした薬剤でさえも経口製剤として提供されているのが現状です。簡便さで劣る他の投与法を採用するよりはAPIの溶解性を改善しようと、様々な戦略が用いられています。

溶解性を高めるための一般的な手法の1つは、APIの結晶形を変化させることです。固体分散技術を使った非晶質化を行うと溶解性が著しく向上することがわかっています。しかしながら、薬剤の有効期限が切れるまでAPIを非晶質状態のまま維持することは、依然として非常に困難な課題です。そこで、APIの結晶状態を手軽に評価できる手法が強く求められています。

化合物の結晶状態に関する情報は、粉末X線回折法、示差走査法、熱量測定法、各種の分光法といった、様々な手法によって得ることができます。固体NMR(ssNMR)法は中でも特に有効ですが、ランニングコストと測定時間または計測時間の長さの面から結晶状態の分析への使用は限られています。

パルスNMRとも言われる時間領域NMR(TD-NMR)は、固体NMRより実行しやすく、しかも同レベルの精密さで結晶状態を評価可能な技術であることが最近明らかになりました。卓上型のTD-NMRでは、固体および液体試料のT1・T2緩和時間を素早くかつ容易に測定できます。既に製薬業界では、API中の水和水分子の運動性を評価するためにTD-NMRが広く活用されています。

最近行われた研究ではAPIの非晶形および結晶形の確認を目的としたTD-NMR法が検討され、2種類の難水溶性API(カルバマゼピン、インドメタシン)がBrukerのD8 DISCOVERを用いた粉末X線回折法、ならびにBrukerのminispec mq20を用いたTD-NMR法によって評価されました。

その結果、TD-NMRで測定したT1緩和時間のデータに基づき、粉末状のAPIの結晶/非晶質状態を良好に識別することができました。さらに確証を得るために、熱応力試験中に物理的混合物の一部となったAPIの結晶状態の継続的モニタリングも実施されました。APIが幾通りもの結晶形に変化する様子を、TD-NMRで記録するT1緩和パターンに反映させることに成功しています。

著者らは、この知見はAPIの結晶状態の評価における新手法としてのTD-NMRの有用性を支持するものだと結論付けています。

参考文献:

Okada K, et al. 1H NMR Relaxation Study to Evaluate the Crystalline State of Active Pharmaceutical Ingredients Containing Solid Dosage Forms Using Time Domain NMR. Journal of Pharmaceutical Sciences 2019;108(1):451–456. https://jpharmsci.org/article/S0022-3549(18)30551-3/fulltext