アプリケーション例 - 磁気共鳴

次世代リチウムイオン電池の開発

高エネルギー密度、軽量、深充電サイクルのリチウムイオン電池は、現代の携帯用電子機器になくてはならないものです。電気自動車への電力供給、各地の電力網における負荷平準化のための大型電池の使用という新たな需要が生まれたことで、電池貯蔵の向上は、性能の向上が絶えず求められている、注目の研究分野の一つになっています。

この度初めて、電子常磁性共鳴(EPR)分光法により、電池が充電・放電サイクルを行っている間に電極表面で実際に生じている酸化還元過程をリアルタイムで画像化することが可能になりました(in operando: オペランド(実動作下)観測)。

EPRまたは電子スピン共鳴(ESR)分光法は、強磁場における不対電子のマイクロ波励起スピンの研究に使用されることでよく知られた分光法です。1 EPRは原理が核磁気共鳴(NMR)のそれに類似しており、とりわけ、不対電子が存在する金属錯体や有機基を伴うシステムの研究に有用です。

磁気共鳴画像法(MRI)と類似のイメージングへEPRをさらに踏み入れることで、電池の酸化還元サイクル中の活性酸素種の生成・消去を特性化するための有力な方法が電気化学分野に提供されています。

EPRスペクトルは、常温下でマイクロ波適合性電気化学セルを用いてブルカー社のELEXSYS E580分光計により記録しました。データ収集中、セルは閉回路としました。Flexline共鳴装置によるパルス-EPRデータ収集速度と精度の向上によって、ミクロン単位の適切な分解能でのEPRイメージング(EPRI)が可能となるプラットフォームが実現されました。

現在EPRIは次世代高容量電極材料を研究する機会を提供していますが、最終的には、最近行われたin operando でのリチウム電極の観測において従来のEPRと併せて使用された走査電子顕微鏡法(SEM)を用いた原子の視覚化と同様の方法による電子密度の視覚化を可能にするでしょう。 2

最近のNature誌3で概要が示されたoperandoでの革新的なEPRイメージング分光法の研究では、高容量リチウムリッチ層状酸化物であるLi2Ru.0.75Sn0.25O3を正極として使用したリチウムイオン電気化学セルが観測されました。

in operandoでの5+と常磁性酸素種のEPRシグナルは、システムに高容量をもたらすスーパーオキソ/ペルオキソ(O2)n- イオンの可逆的生成に対する強力なエビデンスを示しました。さらには、EPRIにより、負極と核生成領域におけるリチウムの被覆/除去、正極においてはRu5+/酸素種の増大がミクロン単位の分解能で視覚化されました。

In situ EPRIは未だ発展段階にあり、現時点では超高分解能が不足した状態ですが、感度と分解能をともに向上させるために次の2つの方法が進められています。それは、(1)傾斜強度を1Tcm-1まで大幅に増加する方法、または(2)より強いB1磁場でEPRマイクロ共鳴装置を使用する方法です。ただし、実験用に特別に設計されたマイクロ電池が必要となります。

EPRIの新たな分野により、電流率、電位、休止時間、電解質や温度に応じ、新電池の酸化還元種のキネティクス(反応速度論)を調査する多くの興味深い実験が可能となり、またこれにより新規高効率電池の設計開発が促進されるでしょう。

参考資料

  • Lund, A., Shiotani, M., Shimida, S., Principles and Applications of ESR spectroscopy, 2011, Springer, New York.
  • Wandt J., Marino C., Gasteiger H.A., et al., Operando electron paramagnetic resonance spectroscopy – formation of mossy lithium on lithium anodes during charge–discharge cycling, 2015. Energy Environ. Sci., 8, 1358.
  • Sathiya M., Leriche J.-B., Salager E., Gourier D., Tarascon J.-M., Vezin H., Electron paramagnetic resonance imaging for real-time monitoring of Li-ion batteries, 2015. Nature Comm., 6:6276 [DOI: 10.1038/ncomms7276]