アプリケーションノート -  磁気共鳴

ワンクリックのアダマール実験

標準的な実験に、TopSpinのExperiment Selectorを使うことができます。

標準的な実験に、TopSpinのExperiment Selectorを使うことができます。

TopSpin 3.5パッチレベル6で導入されたExperiment Selectorは、ブルカーの装置での標準的な実験とユーザー所有の実験ライブラリーの両方を調整するユーザーフレンドリーなツールです。複雑な実験の設定を大幅に簡略化できるようになりました。例えばこれまでは、マルチレシーブ実験は、測定用のマニュアルに記載された、かなり詳細な説明に従って設定する必要がありました (Topics in Curr. Chem., 2013, 335, 71-96) 。Experiment Selectorを使うことで、このような実験もアクションアイテムをクリックするだけで設定することが可能です。Experiment Selectorで容易になった実験設定のもう一つの例として、TopSpin 3.5 パッチレベル7で導入されたアダマール実験(Prog. NMR Spectrosc., 2003, 42, 95-122)があります。かつてはこれらの実験も、手順通りに実行しなければならない多数のステップが記載された詳細な説明に従う必要がありました。TopSpin3.5 パッチレベル 7 とTopSpin4.0.2でのアダマール実験の設定の例を以下に示します。

TopSpinのExperiment Selector

アダマール実験の基本コレクションは、Experiment Selectorの低分子セクションにあります(図1参照)。HT_SELEX、HT_SELINV、HT_SELREFの実験は、それぞれ複数か所の選択励起、インバージョン、リフォーカスパルスに基づく3つの基本アダマールエンコーディングをテストします。新しい実験を作成して、Experiment Selectorの該当する項目をクリックし、アダマール実験に必要なパラメータセットをロードします。

Fig. 1. The Hadamard Experiments folder in the Experiment Selector.

Experiment Selectorの各項目はアクションアイテムが表示されるように展開できます(図2参照)。そうしておくと、アクションアイテムをクリックするだけでアダマール実験が始まります。測定の開始前に、パラメータに必要な実験番号が既に反映されている場合以外は、aunmスクリプトが、ピークリストを含んだ実験番号を入力するようメッセージを表示します。処理も同様にシンプルで、必要なことは通常のxfbコマンドではなく、proc_hadスクリプトを実行することだけです。

アダマール実験で必要な、周波数エンコードする波形の作成というかなり複雑な作業が、wvm (WaveMaker)コマンドを含むシンプルなスクリプトで完了します。上記に沿って測定されたアダマールNOESYスペクトルを図3に示しています。

WaveMakerと自動化

WaveMakerのコマンドwvmが、TopSpin3.5 パッチレベル6とすべてのTopSpin4リリースで利用できるようになりました。これにより、あらゆる実験ニーズにおいて、シンプルかつユーザーフレンドリーな方法で、波形パルスや波形パルスを用いたデカップリング、グラジェントパルスを作成できます。特に、波形パルスや波形パルスを用いたデカップリングを使った相当な柔軟性が求められる実験で役立ちます。アダマール実験はその一例です。なぜなら、サンプルごとに複数か所を選択励起するパルスのセット、つまりアダマールエンコーディングパルスが必要だからです。wvmを実行すると、特定の実験に必要なすべての波形パルスが自動的につくられ、関連する実験パラメータが設定されます(–a オプション)。実験を自動で行う場合は、実験パラメータを示すwvmアウトプットを抑制しなければなりません。TopSpin 3.6 と4.0.3では、このアウトプットを –q (quiet) オプションで抑制します。自動でアダマール実験を開始するには、aunm パラメータを ‘had_zg#’ に設定します。この場合、# は必要なピークリストを含んだ実験番号です。古いバージョンのTopSpinをお使いのお客様は、Bruker オンラインユーザーライブラリーから、WaveMakerとアダマール実験をご利用いただけます。

オンラインユーザーライブラリー

ブルカーのオンラインユーザーライブラリーは、ブルカーのユーザーがそれぞれの最新のパルスプログラムを共有できるオンラインプラットフォームです。ユーザーライブラリーはこちら

最新のものとしては、断熱緩和分散(F.-A. Chao およびA. Byrd)、NOAH 実験(Ē. Kupče およびT. Claridge)、HCNMQC 実験(Ē. Kupče およびB. Wrackmeyer)、創薬に関する一連の実験 (A.D. Gossert)、FAST COSY (P. J. Sidebottom) のほか、その他の多数のラボ(B. Brutscher、A. Bax、G. Morris、G. Bodenhausen、P. Schanda、G. Martin等々)による数多くの実験があります。ブルカーのコミュニティで最新のパルスプログラムをぜひ共有してください。

Ēriks Kupče執筆(Bruker UK Ltd.)

Fig. 2. The Experiment Selector with the action item revealed.
Fig. 3. The 2D Hadamard NOESY spectrum of pamoic acid in DMSO-d6 recorded in 30 seconds.