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Bruker ユーザーライブラリー新規登録: 生体分子NMRのための高速・高感度 TOCSYおよびNOESY実験

TOCSYおよびNOESYは、同種核NMR相関実験の基盤となっています。しかし、これらの分極移動法は感度が低いという弱点があり、特に緩和が速いプロトンや交換速度の速い不安定なプロトンを含む系では、その欠点が顕著に現れます。

TOCSYおよびNOESYは、同種核NMR相関実験の基盤となっています。しかし、これらの分極移動法は感度が低いという弱点があり、特に緩和が速いプロトンや交換速度の速い不安定なプロトンを含む系では、その欠点が顕著に現れます。我々は最近,Looped PROjected SpectroscopY(L-PROSY)を導入しました1。これは、緩和と交換を実際に利用して、NOESYおよびTOCSYで観測されるアミド基、ヒドロキシル基、アミン基のクロスピークの感度を向上する手法です。

このライブラリーでは、周波数選択的な飽和あるいはループ反転手順に基づき、単位時間当たりの感度をさらに向上させる一連の実験を紹介しています2。スペクトルがまばらで、異なる周波数固有の「チャンネル」(ピーク)に個別に適応できる場合には、従来法あるいは L-PROSYに比べて、大幅に高速(積算回数が少ない)かつ高感度(一回積算当たり)な実験が可能となります。

実験は磁化移動(magnetization-transfer, MT)現象に基づいています。図1Aおよび1Bにシーケンスを示します。これらの実験では、交換可能な(あるいは高速で緩和する)プロトンは、長い単色の飽和パルス(Selective MT - SMT:同じスピンプール内での相関)またはHadamardでエンコードする方法に従った反転パルス列(Hadamard MT - HMT:スペクトル的に異なるスピンプール間の相関)によって順次処理されます3。CESTのように、溶媒からの補充で交換性プロトンの飽和度が拡大4 するMTプロセスでは、結果として得られる同種核のクロスピークが大幅に増強しますが、選択的照射の手法では、通常の2D実験の数分の1の時間で増強することができます。

 

このライブラリーでは、WaveMakerを用いた波形パルス実験のセットアップをサポートするユーザーフレンドリーなパルスプログラムを提供します。SMTでは選択的な励起とリフォーカス、HMTでは水のフリップバックが可能であり、いずれも水溶液中での積算の繰り返し時間を短くすることができます。

この方法は一般的なものであり、低分子、多糖類、RNA、タンパク質系の交換速度や緩和時間の速いプロトンをターゲットにすることができます。図1Cおよび1Dは、5_SL5B+C、SARS-CoV-2 RNA断片のイミノプロトン領域を示しています。SMTバージョンは、イミノプロトン間に観測されるNOESY相関を増強するために使用され、HMTバージョンは、イミノプロトンとRNAの他のプロトンとの間の空間的な原子間の距離情報を提供し、さらに多重化を考慮できる利点があります(注:スピンダイナミクスが機能しないため、プロトンの同じプールで相関を確立するためにはHMTではなくSMTを使用してください)。これらの実験は通常の磁場でも実施可能ですが、ピークの分離が良く(Hadamardエンコードに重要)、T1緩和時間が長い(相関のMTを強化するのに重要)超高磁場での実験が有効であることに注意してください。

図1. A) 選択的MT実験(SMT)のパルスシーケンス。エンコードには長い連続した飽和パルスを用い、検出には選択的スピンエコーを用いることで、非常に短い積算の繰り返し時間(0.3~0.5秒)でイミノプロトン間に観測されるNOESY相関を高速で得ることができるように設計。B) ループ状の反転パルスおよびWatergate 3919の水消去スキームを利用して、RNAの残りのプロトンとイミノプロトンとの相関を高速に得るために設計されたHadamard MT実験(HMT)のパルスシーケンス。C) SARS-CoV-2の5_SL5B+C RNAフラグメントのSMTイミノプロトン間の相関スペクトル。D) 通常のHMTスペクトル(黒)とWatergate 3919の水消去ブロックで15N MQフィルターを適用したHMTスペクトル(赤)。各HMT相関は40分で取得。参考として、従来のJR NOESYを1回使用した場合、同様の感度でこれらの相関を得るためには24時間以上必要。データは、COVID-NMR研究の一環として、TCIクライオプローブを装着したAvanceNEO 1GHz NMR分光計を用いて測定。

これらの概念は、高速再分極部位を個別に扱うことができる他のNMR環境にも適用することができます。例えば、常磁性システムのプロトンや、化学交換の代わりに高速分極共有(ASAP)によって再分極が起こる低分子などがあります5。ここで紹介した2Dの概念は、異種核を含む3D相関にも含めることができ、これを実装したMTベースのパルスシーケンスがまもなくリリースされる予定です。

 

Mihajlo Novakovic1, Ēriks Kupče2, Harald Schwalbe3 and Lucio Frydman1

 

1Department of Chemical and Biological Physics, Weizmann Institute of Science, 7610001 Rehovot, Israel

 

2Bruker UK Ltd., Banner Lane, Coventry, UK

 

3Institute for Organic Chemistry and Chemical Biology, Center for Biomolecular Magnetic Resonance, Johann Wolfgang Goethe-University, D-60438 Frankfurt/Main, Germany

参考文献

  1. Novakovic, M.; Cousin, S. F.; Jaroszewicz, M. J.; Rosenzweig, R.; Frydman, L. Journal of Magnetic Resonance 2018, 294, 169.
  2. Novakovic, M.; Kupče, Ē.; Oxenfarth, A.; Battistel, M. D.; Darón, I.; Schwalbe, H.; Frydman, L. arXiv: 2004.13063
  3. Kupče, E.; Nishida, T.; Freeman, R. Progress in Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy 2003, 42 (3–4), 95.
  4. Van Zijl, P. C. M., & Yadav, N. N. Magnetic Resonance in Medicine, 2011, 65(4), 927.
  5. Kupče, E.; Freeman, R. Magnetic Resonance in Chemistry 2007, 45 (1), 2.