アプリケーションノート -  磁気共鳴

NMRおよびケモメトリクス を用いたヘパリンの構造解析

PCA およびHSQCスペクトルの解析により、異なる動物および臓器由来の粗ヘパリンと異なるプロセスで製造された粗ヘパリンを区別することができました。

PCA (主成分分析)およびHSQCスペクトルの解析により、異なる動物および臓器由来の粗ヘパリンと異なるプロセスで製造された粗ヘパリンを区別することができました。

ヘパリンは、天然の抗凝固剤で、抗凝固および抗血栓の効果を発揮する薬剤として最も一般的に使用されます。血液をサラサラにすることが望ましい様々な心血管疾患や血管内凝固障害の治療に使用されます。また、大手術の後に血栓が形成され、深部静脈血栓症や肺塞栓症が起こるのを防ぐために、予防的にも使用されます。

ヘパリンは、分子量の異なる多糖類の不均一な混合物です。また、大きなポリマーを除去して低分子化したものも、同様に用いることができます。効果は劣りますが、低分子ヘパリンは出血のリスクが低く、監視の必要性も低いため一般的に使用されます。

医療用ヘパリンは本来、ウシやブタの腸管粘膜から得られますが、ウシ海綿状脳症(BSE)の懸念から、現在はほとんどの国でブタ由来のヘパリンのみが使用されています。

ブタヘパリンの需要増に対応するため、安価な半合成抗凝固剤であるコンドロイチン硫酸を添加する偽証もありました。その結果、多くの健康被害が発生し、死者まで出たため 1、より厳格な品質管理手順の必要性が浮き彫りになりました。

近年、核磁気共鳴(NMR)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による試験が行われるようになり、このような嵩増しされたヘパリン製品が再び市場に出回るリスクはなくなりました。

しかし、不純物の存在は確認できても、こういった手法では粗ヘパリンの起源、すなわちブタかウシかを特定することはできません。粗ヘパリンは世界中の多くの製造業者から供給されており、医療用ヘパリンの製造業者にとって、精製のために入手した粗ヘパリンの出所を追跡することは不可能な場合が多いのが実情です。

1つの粗ヘパリンバッチの中に、複数の異なる場所で処理された動物のヘパリンが含まれていることがあります。従って、医療用ヘパリンを製造するための精製工程に資金を投じるよりも、粗ヘパリンの品質と真正性を検査することが重要です。

粗ヘパリンの組成や硫黄の分布を分析することにより、その出所を特定することが可能です。しかし、現在のヘパリンの分析では、その構造や組成を決定することはできません。

研究者らは最近、NMRとケモメトリックス により、異なる動物や臓器に由来する粗ヘパリンと異なるプロセスで製造された粗ヘパリンを効果的に区別できることを実証しました 2

2010年から2015年の間に13の異なるメーカーから入手したヘパリンサンプルのNMRスペクトルが、Bruker AVANCE III 600 MHzまたはBruker AVANCE III HD 500 MHzで測定され、Bruker TopSpinソフトウェアを用いて処理され、シグナルの強度を定量的に調べられました。粗ヘパリンの定量組成は、HSQCスペクトルを用いて決定しました。

このデータは、試験した粗ヘパリン全体で組成が異なることを示し、メーカーごとに精製のレベルが異なることを示し、その結果、メーカーが異なるヘパリンを正しく識別しています。


参考文献

  • Guerrini M, et al. Oversulfated chondroitinsulfate is a contaminant in heparin associated with adverse clinical events. Nat. Biotechnol. 2008;26:669–675.
  • Mauri L, et al. Combining NMR Spectroscopy and Chemometrics to Monitor Structural Features of Crude Heparin. Molecules 2017;22:1146.

References

Guerrini M, et al. Oversulfated chondroitinsulfate is a contaminant in heparin associated with adverse clinical events. Nat. Biotechnol. 2008;26:669–675.

Mauri L, et al. Combining NMR Spectroscopy and Chemometrics to Monitor Structural Features of Crude Heparin. Molecules 2017;22:1146.