ナノインデンター

金属の硬さ評価

マイクロインデンテーションおよびナノインデンテーションを用いて、金属の硬さを定量的に評価

硬さ試験は、材料の塑性変形に対する抵抗を評価するために広く用いられている手法です。代表的な手法であるマイクロインデンテーションとナノインデンテーションは、それぞれ異なる測定スケールと特長を備え、用途に応じて使い分けられています。

マイクロインデンテーション

マイクロインデンテーション(マイクロ硬さ試験)は、一定の荷重でダイヤモンド圧子を試料表面に押し込み、硬さを評価する手法です。ナノインデンテーションと比較して大きな体積領域の評価に適していますが、測定スケールや測定速度には制約があります。


残留圧痕の測定

マイクロ硬さ試験では、荷重除荷後に残留圧痕を光学的に観察し、その対角線長さからビッカース硬さ(HV)を算出します。このため、高い測定精度が求められ、適用可能な評価スケールにも制約があります。


評価領域の平均的な機械特性の取得

マイクロインデンテーションで得られる硬さ値は、圧痕下の比較的大きな体積領域の平均的な応答を反映します。そのため、複数の組織や相が混在する材料では全体傾向を把握するのに有効ですが、個々の結晶粒や相ごとの差異を評価することは困難です。

また、金属薄膜やコーティングのような薄い材料では、基材の影響を受けやすく、適切な評価が難しい場合があります。

ナノインデンテーション

ナノインデンテーションは、硬さ評価に加え、ナノスケールでの機械特性評価を可能にする高度な試験手法です。マイクロインデンテーションよりも鋭利な圧子と高感度なトランスデューサを用いることで、より微小な領域の評価を実現します。

ナノインデンテーションでは、荷重-変位曲線を連続的に取得し、そのデータを解析することで材料の機械特性を評価します。接触力学モデルを用いて接触面積を算出するため、圧痕の光学観察を必要としません。

評価対象のスケールによっては、ナノインデンテーションはマイクロインデンテーションに対してさまざまな利点をもたらします。


弾塑性特性の評価

ナノインデンテーションでは、硬さなどの塑性特性だけでなく、材料の弾塑性特性も評価できます。荷重-変位曲線を解析することで、硬さと弾性率を同時に評価し、材料の機械的挙動をより包括的に理解できます。

また、荷重-変位曲線に現れる不連続点から、破壊やはく離が発生する臨界荷重を特定できます。さらに、保持時間を設けた測定条件を用いることで、クリープ特性や応力緩和特性の評価も可能です。


高い空間分解能と感度

ナノインデンテーションは、極めて微小な体積領域の評価が可能であり、硬さ、弾性率、クリープ特性などの機械特性を高分解能で取得できます。

特に、マイクロインデンテーションでは評価が難しい薄膜、コーティング、小さな組織相の評価に適しています。また、高スループット測定を利用することで、多数の測定点から代表的な特性分布を効率的に取得することも可能です。


高精度な特性評価

ナノインデンテーションでは荷重と変位を直接測定するため、残留圧痕寸法の測定に起因する誤差を排除でき、より高精度な機械特性評価を実現します。


高分解能な機械特性マッピング

ナノインデンテーションは、材料表面の機械特性分布を高分解能で可視化できます。不均質材料の評価や局所的な特性変化の解析に有効であり、熱影響部、組成変化領域、損傷領域などにおける特性勾配を詳細に評価できます。


小さな試料の評価に対応

ナノインデンテーションは、マイクロインデンテーションと比較して必要な試料量が少ないため、限られたサイズの試料しか入手できない場合でも評価が可能です。


多様な環境条件下での測定

微小領域を対象とするナノインデンテーションは、温度、湿度、液中環境などの測定条件を精密に制御しやすいという特長があります。さらに、低温・高温環境やひずみ速度制御と組み合わせることで、実使用環境に近い条件での材料評価も可能です。

ナノインデンテーションとマイクロビッカース硬さ試験の比較

ナノインデンテーションとマイクロビッカース硬さ試験では、それぞれ異なる圧子形状を使用できますが、最も広く用いられているのはバーコビッチ圧子とビッカース圧子です。両者はいずれもピラミッド形状を有し、類似した形状比を持っています。

一方で、ナノインデンテーションに使用されるバーコビッチ圧子は3面構造であるのに対し、ビッカース圧子は4面構造です。そのため、バーコビッチ圧子はより鋭利な先端形状を持ち、微小領域の機械特性評価に適しています。

ISO 14577では、ナノインデンテーション硬さ(HIT)とビッカース硬さ(HV)を換算するための標準式が定義されています。バーコビッチ圧子の場合、HV = 0.0945 × HITとして換算することができ、異なる硬さ試験手法で得られた結果を比較する際に活用されます。ただし、この換算式は圧子形状に基づく理論換算であり、材料や試験条件によっては実際のビッカース硬さと一致しない場合があります。実際の評価では参考値として活用することが推奨されます。


ナノインデンテーションとマイクロビッカース硬さ試験の直接比較

図の事例では、ナノインデンテーション硬さはマイクロビッカース硬さ試験で得られた値と良好な一致を示します。

一方、ナノインデンテーションでは同一領域内で多数の測定を実施できるため、硬さ分布を統計的に評価することが可能です。マイクロビッカース硬さ試験が比較的大きな領域の平均的な硬さを評価するのに対し、ナノインデンテーションではより微細なスケールでの硬さ分布を可視化できます。

これにより、材料内部の局所的な機械特性や組織の不均一性を高い空間分解能で評価することが可能です。