アプリケーションノート -  磁気共鳴

新しいポリアミド重合体の熱安定性の評価

今後50年間で、原油の供給量は、世界的に増加の一途をたどるエネルギー需要量を満たすことができなくなると考えられています。

CaCl2-NaCl溶媒で調製した試料では、AN132 VHMを除く全てのポリマーにおいて、90日のエージング後に粘度の低下が確認されました。これは、ポリマーの負帯電サイトへの結合や電荷遮蔽によってカチオンが強く作用するためです。

今後50年間で、原油の供給量は、世界的に増加の一途をたどるエネルギー需要量を満たすことができなくなると考えられています。石油需要が高まる一方で、新たな油田を発見することは、これまで以上に困難になっています。

既存の石油供給力を長く維持する1つの手段として、採油率を高める方法があります。採油率は一般的に20~40 %程度であり、ガス田で達成される90 %という回収率と比べてもかなり低くなっています。

こうした理由から、EOR(原油増進回収法:Enhanced Oil Recovery)の技術の重要性がこれまで以上に高まり、世界中の油田で広く採用され始めています1。このような戦略が活用されれば、枯渇していく石油埋蔵量によって生じるエネルギー不足を補う代替エネルギー源や関連技術が開発されるまでの時間を稼ぐことができます。

幸いにも、多くのEOR戦略は、石油生産効率の持続的向上につながることが実証されています2。その中でも優先的に選ばれるのは水攻法です。これは、水の供給源として海を活用するのが容易であるためです。油層を生産井へ送り込むために必要な圧力差が油層内で維持されるように、油層に水を注入します。水は原油よりも速く移動するため、水が原油をすり抜けて流れる傾向があります3。従って、水の流れを遅くすることで、生産井へ流れていく油量を増やすことができます。水の流れを遅くするためには、注入する水に、水の粘度を高くするためのポリマーを加えます。これによって水の移動が遅くなり、生産井に送り込む原油の流量を増やすことができます。

石油業界では、これまでポリマー攻法には非加水分解性のポリアクリルアミドベースの合成ポリマーを採用してきました。化学的な安定性が良好であることが採用の理由ですが、このポリマーは鉱物の表面に吸着されやすく、相当量を喪失するという欠点があります。そのため、部分的に加水分解されたHPAMポリマーに置き換えられました。このポリマーは、ポリアクリルアミド(HPAM)の一部のアミド基をカルボキシレート基に変換することで、高い粘性を持っています4。負の電荷を持つHPAMのカルボキシル基は、負の電荷を持つ岩石表面と反発するため、HPAMの吸着が抑えられます。

しかし、高温または高塩濃度(あるいはその両方)の油層ではHPAMが劣化する可能性があり、その場合は粘度が低下して、結果的に採油率が低下します。つまり、ポリマー攻法によるEORを最適化するには、熱分解への耐性が高い新しいポリマーが求められます。

4種類の新しいポリマーの熱安定性を異なる塩濃度で経時的に評価しました5。スルホン化ポリアクリルアミド共重合体であるFLOCOMB C7035、AN132 VHM、SUPERPUSHER SAV55、およびTHERMOASSOCIATIFをCaCl2-NaClまたはNaCl溶液とし、酸化防止剤添加/無添加の2種類で、80℃、90日間の劣化試験を行いました。

Nicolet™ 10 FTIR分光計によるフーリエ変換赤外(FTIR)分光法と、Bruker の500 MHz NMRを用いた分析では、溶媒の種類(NaClまたはCaCl2-NaCl)に関わらず、酸化防止剤を使用しないポリマー試料の方が、粘度が大幅に低下することが確認されました。THERMOASSOCIATIFは即時に劣化が始まりましたが、他のポリマーは最低でも7日間は粘度を維持しました。

酸化防止剤を添加した場合、NaCl溶媒で調製したポリマー試料はいずれも、時間の経過とともに粘度が高まることが確認されました。同様に、CaCl2-NaCl溶媒で調製したAN132 VHMは、90日後に粘度が高くなることもわかりました。一方で、CaCl2-NaCl溶媒で調製した他のポリマーについては、酸化防止剤を使用した場合でも粘度の低下が見られました。

参考文献

  1. Udy J, et al. Processes 2017, 5, 34; doi:10.3390/pr5030034
  2. Oil and Gas Authority 2017. Available at https://www.ogauthority.co.uk/media/4283/polymer-eor-industry-starter-pack-ver3.pdf
  3. Sheng JJ, et al J Can Pet Technol 2015;54:116–126.
  4. Hashmet MR, et al. J Dispers Sci Technol 2013;35:510–517.
  5. Akbari S, et al. Polymers 2017;9:480‑494.