磁気記憶媒体のデータ密度を増加させるために効果的な方法の1つとして、読み書きするヘッドの底部からディスク上の磁気媒体の上部までの距離を短くすることがあります。ヘッドと媒体間隔(HMS)が小さければ小さいほど、読み書き信号の完全性は大きな面密度でもより高くなります。このような高いデータ密度を有する新世代の磁気記憶媒体の開発において、極薄DLCコーティングや保護フィルムや潤滑剤も高い精度でその特性を制御する必要があります。将来の磁気データ記憶技術は、データ密度を高めるために熱アシスト磁気記録方式やおよびビットパターン記録方式が用いられています。
これらの極薄DLC膜の機械的特性およびトライボロジー特性を制御することは、スライダーとディスクの衝突による損傷を最小限に抑えるか、またはなくすために非常に重要です。DLC膜はC-C sp2とsp3の結合構造が混在しているため、広い範囲の機械的特性およびトライボロジー特性を持ちます。これらのナノ機械的特性およびナノトライボロジー特性を、多くの場合厚さがわずか数原子層である状態で定量的に評価することにより、製品として高い性能を発揮できる製造条件などを最適化することができます。さらに、DLC/アンダーコート/媒体間の界面接着特性を定量的に測定することにより、製品の信頼性を向上させることが可能です。
ブルカーでは磁気記憶媒体業界で使用される極薄DLCコーティングの特性評価に取り組み、これらの分野で有効なナノ機械的特性およびナノトライボロジー特性評価のための次世代技術を開発しています。新しいトランスデューサー技術により、これまで不可能であった長さスケールにおいて定量的なナノインデンテーションを可能にしました。また、特許取得済の評価モデルと組み合わせることで、基材を含まない、フィルムのみの機械的特性の算出を実現します。さらに、ナノスケールのスクラッチ測定により、定量的な摩擦・摩耗の定量的な評価を行うことでヘッドと媒体の衝突をシミュレートすることが可能です。これらの技術により、データストレージに用いられる材料の機械的信頼性を向上させ、安定した製造プロセスを達成することができます。